10万円の給付の話がようやく固まりました。
(この件に関する政治的部分の意見は控えます)
この話を踏まえて「現金」について改めて整理します。
以前に投資における「現金」についてまとめました。ここでは「投資資金の確保」に焦点を当てています。
今回は「ポートフォリオにおける現金」について考察します。
投資を始めると必ずといっていいほど耳にするのは
・フルインベストメントは危険である
・現金に価値はない
の2つです。
現金を全て金融商品に投資してしまうと、
・いざという時に身動きが取れなくなる
・資産全体がマイナスになる可能性がある
ことからフルインベストメントは避けた方が良いというお話です。
一方で時間が経過すると現金は価値がなくなります。
レイダリオは明確に現金に価値がないことを主張しています。
理由は
・現金の性質
と
・資本主義における基本的な経済政策
の2つです。
現金は価値の交換に適していますが(現金があればあらゆるものが購入できる)価値の保存には適していません。生鮮食品のように時間が経つとあっという間に劣化します。
さらに資本主義経済は「経済成長を常に希求する」ことを前提としているため、経済施策は緩やかなインフレを基本とします。インフレに向かうことで経済が成長軌道に乗るからです。
インフレに向かう場合、モノの価値の方が現金の価値より上回ります。このため、経済政策がインフレ寄りである限りは現金の価値はどんどん無くなっていくことになります。
これらのことから「現金を持っていても価値がない」と結びつけることができます。
ところが悩ましいのは現金に価値がないこととフルインベストメントの危険性とが結びつかない点です。方や現金を持っていても仕方がない、方や現金をいくらか持っておいてねという話なので仕方がないです。
<忘れてはいけないのが「現金も投資である」点>
現金はポートフォリオの一部を構成しているという点は忘れがちですが、大事なことです。
ポートフォリオ(資産配分)は金融資産の構成比率を意識しがちですが、現金もその一部です。現金比率を上げると資産ポートフォリオの構成比率は大きく変わってしまいます。
現金のまま留めておく(貯金を選択する)ことはポートフォリオの一部を現金に託す。つまり現金に投資をすることを意味します。現金はデフレが進むシナリオ以外では価値が無くなっていきます。万が一の備えや安心感を得るために現金を持っておくという発想に立った場合、「長期的に負ける可能性があるものに投資をしている」ということを忘れてしまう危険性があります。
資産を増やすための投資がいつの間にか資産を減らす行為にすり替わってしまうことになってしまいます。
<それでも何故現金への投資はやめられない?>
2つの側面があります。
・現金の価値が無くなることは「後から振り返って気がつくもの」だから
・生活に必要な資金と混同するから
何度も書いている「現金の価値は減っていく」というのは実は今この瞬間に起きるものでもなく、銀行口座にあるお金が徐々に減っていくものでもありません。だから厄介なことなのです。銀行口座のお金がモノの価値に応じて徐々に減っていく仕組みであれば誰も現金をそのまま保持しようとは思いません。
100万円預けていれば10年後も100万円の額面は保証されます。利息も僅かですがつきます。
ところが例えば100万円を使う際に10年前であれば100万円分の買い物ができたとしても、10年後は90万円分の買い物しかできない(正確には110万円用意しないと同じものを購入できない)という状況を経験してようやく現金の価値の目減りを実感します。
振り返って気がつくのです。そしてこの時点で10年という時間を失っていることにも気がつきます。でも10年前の自分は現金に価値があると思っていたわけなので仕方がありません。
もう1つは「万が一の事態が起きたときの備え」「投資した金融資産の暴落」といった点が現金保有を後押しするからです。何かがあった時にすぐに使える現金があると人は安心します。その安心を求めて現金をストックするのです。
<結論:現金はどう扱ったら良い?>
投資診断士としてアドバイスをするシチュエーションを想定して現金の取り扱いについて私なりの見解をお伝えします。
・「生活防衛資金」と「現金」は分けて考える
・暴落時に生活資金が必要になった場合は生活防衛資金を充当する
・暴落時以外に資金が必要になった場合は積み立てた資産を切り崩して賄う
・投資のサイクルを意識する
・積立投資の原資を増やすことを意識する
まず大前提として生活防衛資金は不可欠です。これは価値が毀損するものであっても必須です。およそ6ヶ月分の生活費、これはリスク許容度に応じて上下させても構わないですが「一定期間収入がなくても生活に支障が出ないようにする準備」は投資をする上で必須としてください。
そしてこれをポートフォリオにおける「現金」とは分けて考えてください。ポートフォリオの資産総額に「生活防衛資金」を含めないことで現金の備えはできていると考えます。
これにより「万が一の備えとしての現金」が不要となります。既に備えはできているからです。それでも生活防衛資金は仕事ができなくなるなど生活が困窮した時に初めて手を付けるものなので、突然の支出に関しては別の備えが必要です。
冠婚葬祭や入院など突然の出費が発生した場合は既に積み上げた金融資産の一部を売却し現金化することでフォローします。現金を貯金するよりは金融資産の方が資産の上昇スピードが早いので、プラス分を活用して万が一の用立てをするという考え方です。
では金融資産が暴落した今回のコロナショックのような時に現金が必要となった場合はどうすれば良いでしょうか?この時は生活防衛資金を活用します。生活防衛資金として貯金した資金から「借金」をすることで賄います。
貯金取り崩しの形であればカードローンのように金利を支払うことなく現金の調達が可能です。そして時間が経過し、金融資産の状況がプラスに改善したらそのプラス分を生活防衛資金に戻せば良いのです。景気後退期間が長くなった場合は、積立投資の一部を貯金に回すなど調整をかける形でも構いません。
投資のサイクルを意識するというのは
・景気が良い時に利益を確定させる
・景気が悪い時に確定させた利益を投資する
これを投資の一部に組み込むというものです。重要なのは下落局面になった際に投じる資金の確保です。
常に現金を傍に確保するのではなく
・下落局面→上昇局面に向かう場面で現金を確保し
・上昇局面→下落局面に向かう場面で投資する
というものです。
そして何より大事なのは常に投資するための資金を増やすように心がけることです。
投資資金を常に一定量確保し、かつそれが増えるようにすれば「現金確保」という悩みからは脱却できます。