この方の場合、限界と言われてからが本領発揮すると思います。
かつてはITバブル期にIT銘柄に投資しなかったことが批判を呼びましたが、結果的にITバブル崩壊を回避したことで評価は反転しました。
そしてウォーレン・バフェットに再び逆風が吹いています。
・航空株の全売却
・銀行株の一部売却(ゴールドマン・サックス、USBバンコープ)
・さらにバークシャー・ハサウェイの株価低迷
です。
二番底をつけそうな勢いで下がっています。
バフェットの構成銘柄は
・航空株
・銀行株
という現状厳しい業種が主要構成銘柄である一方で、本業含めてコロナショックで需要が伸びているところがないので(強いて言えばアップルぐらい)無理はありません。しかしながら本業の営業利益はプラスになっており、本業の評価は問題ないと見るのがフェアでしょう。
バフェット・マンガーの投資先は企業の本質的価値が株価を上回っている時に一気に買い付けて上昇を待つのに適したところが該当します。しかしながら先日の株主総会で「新たに購入したところはない」というコメントが出たことから「今はバリュー投資に適していない」と判断したことがバリュー投資の現状を物語っていると思います。
つまり
・株価が全体的に割高である
・本質的価値(その企業の現時点での適正株価)が見出しにくい状況である
という点がバリュー投資に逆風となっています。
バフェットは相場を見ない方なので、コロナショックによる株価の下落・その後の反発という要素はあまり関係ないと思われます。どちらかというと「購入に値する企業がない」という現状評価なのでしょう。
一番の問題は「株価が全体的に割高」なことだと思います。
ここ10年でアメリカの株は全体的に右肩上がりとなりましたが、それは本業の業績によるものだけではなく
・自社株買いによるROE,EPSの上昇
・減税・金融緩和といった株高を促す政策
といった要素が絡んでおり、「下駄を履いた状態」と見るべき部分もあります。
バリュー投資の肝は「購入価格」です。株価が吊り上げられている状況だと買いたくても買えない状態になります。今回のコロナショックはリーマンショックやブラックマンデークラスの暴落となりましたがそれでも「最高値から30%程度の下落」であり、企業によっては「それでも割高」というケースもあります。
あくまで企業の本質的価値が価格を上回っていることが最低条件なので、価格基準が大きく変わっている現状の全体的株高はバリュー投資にとっては強烈な逆風といっても過言ではありません。
さらに自社株買いなどの株主還元策はEPSやROEといった企業評価に影響する数字を動かすことになります。つまり、その企業のEPSやROEが企業の真の実力を示しているものなのかどうかが分かりにくくなってきています。
無論バフェット、マンガークラスの投資家であればその企業が内在している実力を把握する術を心得ているはずなので本質的価値が見出しにくい状況を特に気にしてはいないと思いますが、一般投資家にとっては逆風となってきます。
元々バフェット、マンガーのバリュー投資に関する哲学的な部分に関しては様々な書籍や解説本、インタビューなどで徹底的に学習することは可能ですが、そこから投資に結びつける具体的な条件を導き出すには哲学を応用させる必要があります。つまり「自分なりに咀嚼してアレンジ」する必要があるものです。
ただでさえ、企業の詳細な分析が鍵を握るバリュー投資ですが、その分析難易度が高くなっている状況はバリュー投資家にとっては受難の時代と言わざるを得ないです。
<それでもバリュー投資を諦めない>
ではバリュー投資は否定される投資法なのか?それは違うと思います。
「安く買って高く売る」という投資の本質を踏まえるとまず大事なのは購入価格をできるだけ抑えることであり、バリューにこだわることです。
バリュー投資法に関しては様々な評価ポイントがあり、価格の決め方・考え方に関しても理論は様々なところで見ることができます。ただ現時点ではそうした教えに従うと投資に適した銘柄がなかなか見つからないということになります。
単に割安な株を見つけるのは難しくないです。ただ見つかるのはエネルギー、航空、自動車、銀行といった業種がほとんどです。ハイテク銘柄や今のトレンドを追いかけている銘柄、サービス業などはほとんど引っかからないです。
この時バリュー投資家が取るべき方法は3つあります。
1.ひたすら「その時」が来るのを待つ
2.負け組業種であることを気にせず、価格・バリューが割安な企業に投資する
3.細かいことは気にしない、あくまで良い企業に投資する
1.「その時」とは本質的価値が株価を上回る瞬間です。つまり再び株価が下落する瞬間をじっとじっと待つことです。バフェットは待つために先行きの厳しい銘柄を売却し、キャッシュをさらに増やしています。元々増えていたキャッシュをさらに増やすということは「この先に大きな下落が待っているかもしれない」と思うのが自然です。
バリュー投資の本質に忠実であるなら今はじっと待つべきです。機会損失、何それ?の構えです。資金力がある人はこの選択が適切だと思います。でも資金が少ない人がこの選択をするのはなかなか難しいです。
2.シケモクを拾うという考え方です。割安株に投資しその銘柄・業種・セクターに陽が当たるのを待ち続けるというスタンスです。「バフェットは売却したけど、私は買う」ということです。価格にシビアであるならば割高なハイテクよりも割安な銘柄を選ぶべきです。
ただこの考え方は「アフターコロナの世界は元の世界と同じである」という前提に立っています。アフターコロナが元の世界と全く異なるものであった場合、シケモクではなく炎上する火薬のようなものと化してしまいます。
3.私は3がアフターコロナにおけるバリュー投資の原点になるのではないかと見ています。つまり「良いものを買う。可能な範囲で安く買う」です。その企業が良いものであれば多少買値が理論上の値よりも上振れしていても気にせずに買うというスタンスです。
理論値よりも買値が高くなるので、得られる収益は理論上の最大の値よりも下回りますが買いたい時に良いものを買うというのは投資の本質に適っていますし、何よりも精神衛生上良いと考えます。適正な買値が見極めにくくなった以上、例えば最高値よりも何%下回ったから買うとか、値下がり傾向だから買うとかそういったのでも良いかもしれません。
あるいは受難の時期は無理にバリュー投資に固執せず、グロース銘柄を買ったりインデックスを積み立てて凌ぐというのも悪くはないと思います。バリューハンティングするものがなければ切り替えるぐらいの柔軟な姿勢がこれからの時代の投資に求められているものではないかと感がています。