ハワード・マークスの著書は以前から書店で見かけてチラリちらりと立ち読みし、何度となく買おうかどうしようか迷っていたものです。
でもなかなか手が出ませんでした。というのもざっと眺めた段階では「具体的で有益な情報は手に入らないかも?」という直感が働き購入を渋っていました。
今思うとすごくもったいない事をしたなと後悔したほど、読んで正解な本でした。
<ハワード・マークスとは?>
ハワード・マークスはオークツリー・キャピタル・マネジメントの共同創設者です。
マークスは顧客に対して詳細な投資戦略や経済情勢を伝える「オークツリー・メモ」を発信しています。ウォーレン・バフェットと同じく顧客に対して様々な洞察を伝えており、バフェットはマークスのメモ(手紙)を高く評価しています。
「投資で一番大切な20の教え」はバフェットが顧客に対して無料で渡したと言われています。それだけ考え方に共感し顧客に伝えたいと思わせたのでしょう。
<この本は投資指南本ではない>
敬遠した理由でもありますが、この本はいわゆる投資指南本ではありません。また市場に出回っている情報のどこを追いかけると良いか、売り時・買い時はいつかといった具体的情報は一切出ていません。推奨するポートフォリオも出てきません。
「投資で一番大切な20の教え」が伝えているのは投資における哲学、考え方、心構えです。
これを手紙の一節や自身の言葉で何度も繰り返し伝えています。
いわば「投資哲学書」というべき本です。
<哲学を学ぶべき理由>
哲学と聞いて一般的にどういった印象を抱くかは冒頭の筆者のこの本への印象とそう変わりはないと思います。
言ってしまえば「それを知って何の役に立つの?」という話です。
哲学がとかく蔑ろにされてしまうのは実践的ではなく、実益もなくという表面的な印象が強いからだと思います。哲学を学ぶ意義があるのはそこに「思考・思索」が伴ってはじめて生まれます。
思索を深めて徹底的に思考を重ねる事でようやく言われていることが理解できます。理解できるというよりもほんのわずか一旦が掴めるかなというぐらいです。永遠に理解できないものと言えるかもしれません。
でも学んだ方が良いのは「思考力が圧倒的に深まる」からです。
思考力が深まることで、深く知ることができます。深く知ることによっていずれ起こり得る「想定外の事象」への備えができるのではないかと考えています。
一般社会においても哲学がなお効果をもたらす部分があるように、投資においても哲学を学ぶことで想定外(ブラック・スワン)の事象への備えができるのかなと。
<大事なのはリスクコントロールとサイクルへの理解>
この本は総括すると投資哲学を学ぶための本と言えますが、具体的には
・リスクコントロール
・サイクル
という2つを徹底して解説しています。
特にサイクルの部分を重要視しています。
今は例年に比して「好景気・株高」という状況ですが、それがいつまでも続くわけではない。マークスはそれを「振り子」に喩えています。
振り子は左右に揺れますが、1つの位置に留まることができません。
良い状態が長く続かないし、悪い状態も長く続かないということです。
必ずサイクルには転換点があるということです。なので
・良い状態が長く続くと思って強気の投資を続けてしまったり
・悪い状態が果てしなく続くと思ってしまい、資産を投げ売ってしまったり
と言った事をしないように求めています。
ハワード・マークスの投資の考え方は徹底した「逆張り」です。
バリュー投資家以上に徹底した逆張り思考で、世間が見向きもしないものに着目しそこに本質的価値があると判断した場合、躊躇いなく投資しサイクルが反転するタイミングで値上がりしたら収益を得るというものです。
・上昇相場であれば「平均的に稼げれば良い」
・下落相場になったら「平均以上に稼ぎ」より良いパフォーマンスを得る
というスタンスですが、何故そのスタンスなのかについては著書の20の教えが示してくれています。ただハワード・マークスは株式ではなく、ジャンク債・ハイイールド債といったものが得意なのでアセット(資産)全体で評価すべきですが。
非常に読みやすい文体です。具体的な記述は少ないので読みにくいと思わせますが、
スルッと読めました。ただこれは投資を行なってある程度経験を積んだからこそだと思います。手っ取り早く稼ぐのではなく1サイクル循環して始めて利益をあげる投資哲学。
さらに下落局面・暴落を常に視野に入れていることが大きいです。多くの人が強気になり「機会損失」を気にしないといけない状況だったからこそマークスの言葉が刺さるのかなと思います。
つまり読むべきは今です。